東京地方裁判所 昭和33年(ワ)8803号 判決 1959年8月04日
原告 岡部勝次郎
右訴訟代理人弁護士 家入経晴
被告 東京都
右代表者知事 東竜太郎
右指定代理人東京都事務吏員 三谷清
同 常陸昌亮
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
先ず、原告の主張の当否について判断する。公衆浴場法および東京都の「公衆浴場設置場所の配置の基準に関する条例」は、公衆浴場営業を知事の許可にかかわらしめるとともに、新たに設置される公衆浴場は、特別の場合を除き、既設公衆浴場から、東京都の特別区の地域においては二〇〇メートル以上、市および、その他の地域においては三〇〇メートル以上の距離を保たなければならない旨規定しているが、その目的は、公衆浴場の偏在、濫立のために、浴場設備の低下をきたすなどの公衆衛生上の悪影響を生ずることのないように、公衆浴場の適正な配置を保持させようとするものであつて、あくまでも公衆衛生の維持向上をはかることおよび公衆浴場営業の許可は、その目的遂行のため、右営業を一般的に禁止した上、特定人についてのみその禁止を解除し、営業の自由を回復させる警察許可処分であることが、前記法令の規定から明かである。
そして、このため、新たな公衆浴場の開設は制限を受け、既設公衆浴場の営業者は公衆浴場の濫立、競争によつて蒙る不利益を或る程度免れる結果になつているが、これは、新たな公衆浴場の設置が制限されているための反射的利益にすぎず、既設公衆浴場の営業者が特別の保護を受け、一定地域における独占営業権ないし一定の営業利益を保障されているわけではない。
従つて、既設公衆浴場の営業者にとつては、第三者が新たに公衆浴場営業の許可を受け、その附近において営業を開始しても、右営業の許可自体は既設浴場営業者に保障されている営業の自由には何の影響もないものであつて、これに対する法益の侵害があるということはできないから、その結果新たな公衆浴場の開設により、既設公衆浴場営業者に事実上利益の減少があつたとしても、前述のように法益の侵害がない以上、賠償すべき損害もまたないものといわねばならない。
従つて、原告主張の東京都知事の訴外鈴木彦太郎および有限会社吹上に対する新たな公衆浴場営業の許可は、既設公衆浴場の営業者である原告に対し、損害を与えたということはできないから、右営業許可の違法性の有無にかかわらず、これに基く損害賠償を求める本訴請求は、主張自体において失当である。よつて、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中田秀慧 裁判官 柴田久雄 古沢博)